アーティストインタビュー|「マイノリティーの存在に気づかせる」アートと福祉の共通点
――”no concept”という制作スタンスで沖縄を拠点に活動するアーティスト・DENPA。壁画アートや絵画で国内外を問わず活躍するDENPAさんに、ライフデザインは本社や事業所のオフィスアート、Tシャツなどのアパレルデザインを提供していただいている。「最近になって福祉の必要性を感じます」というDENPAさんに、アートと福祉について聴いた。
“no concept” 誰かに認められるためじゃなく、思うままに描く
――ライフデザインに素晴らしい作品を提供していただきありがとうございます。今日も新しくオープンする事業所の壁画を描いてくださっている途中なんですね。
はい、ここはライフデザインさんから「新しい事業所のイメージカラーのグリーンを使ってほしい」という依頼をいただきました。それと現場を見させてもらったときに窓がなくて自然光が入らない場所で壁もグレーだったので、パッと明るくなるような空間にできたらいいなと思ってラフデザインをいくつか出させていただきました。
――仕上がりが楽しみです。普段、ご自身の作品をつくるときには”no concept”を掲げていらっしゃると聞きました。
僕は小さいころから絵が好きでいつも描いていたんですが、大きくなるにつれて大人から「その絵はどういう意味なの?」「アートをやることにどんな意義があるの?」といったことばかり聞かれるようになりました。だから成長の過程でなんとなく絵を描かなくなって、大学生の頃には手堅いところに就職してなにか周囲に認められる生き方をしなくちゃいけないと思うようになっていました。実際に企業に就職して働いたりもしたんですが、そういう生き方に違和感を持つようになって、20代後半からまたアルバイトをしながら絵を描くようになりました。
no conceptっていうのもそれに通じるものがあって、人の顔とかわかりやすいものをきれいに描くと理解してもらえて褒められたりするんですが、だんだんと「こういう絵を描くとウケる」「わかりやすい方が伝わる」って考えながら描くことに違和感を感じるようになりました。毎回毎回コンセプトがないといけないのかな、メッセージがないといけないのかなって。そんなときに31歳で初めての子どもを授かったんですが、赤ちゃんみたいな感覚で絵を描いた方が楽しいだろうなと思いました。
それで、できるだけ脳みその中の凝り固まった概念をいったん置いておいて、思うままに描いてみようと思ったのが”no concept”の始まりです。
――ある意味、見る人に解釈を委ねるアートですね。
伝えたいことがあるアートもカッコいいと思います。ただ僕の場合は、作品を前にして見る人がお互いの思ったことを伝えあえるアートだったら素敵かなと。
――一方で、ライフデザインのように企業等から依頼を受けて描くときにはある程度希望を聞いてラフ案を出すという方法なんですね。
はい、依頼をいただいてやる仕事と自分のアートは切り分けています。ご依頼いただいて描くものは「あたたかい印象にしたい」「さわやかにしたい」といったイメージをお聞きして、そのイメージを目指して描きます。
「マイノリティーの存在に気づかせる」アートと福祉の共通点
――ライフデザインと出会う前に福祉と関わったことはありましたか?
しっかりと関わったことはありませんでした。ただ最近になって福祉の必要性を感じることは多くなりました。
友人のお子さんが発達障害なんですが、その友人と一緒に仕事をしたときに、発達障害だと聞いてはいたし頭では理解していたんですが、実際に丸一日一緒に過ごすと知識として知っているのとは全然違っていました。でも、友人は仕事関係者には「うちの子は発達障害なので」とは言わないんです。たぶん友人なりのポリシーで、一定のルールがある社会の枠組みの中で生きていくにはそういうことに対応していかなくちゃいけないみたいな考えがあるようです。仕事でそれを言ってしまうと、周囲の人に配慮を強制するようなことになってしまうからだと思います。
僕は普段は友だちとして仲よくしているんですが、いざ仕事で関わるとなると身内として配慮したり、なにか先回りして整えておかないとダメなのかなって学びました。
――障害のある人が社会で生きていくにはまだまだ難しいことがたくさんあります。
世の中で生きていくためには社会の平均みたいなものに合わせる部分って必ず必要になるとは思います。その平均が「スタンダード」だと勘違いされていることが多いんだと思いますが、そのスタンダートから著しく離れている人っているじゃないですか。そういう人たちにとっての「スタンダード」を世間一般の人にもっと知ってもらうことが必要だなと感じます。よく言われる多様性というものを本当の意味で達成することが求められているんだと思います。
――ライフデザインは「福祉のスタンダードを変革する」というビジョンを掲げていますから、そんな「スタンダード」も変えていきたいところです。
アートと福祉ってすごく共通点があると思っています。僕は、社会のマイノリティーとされる方たちの生きづらさをケアするのが福祉だと思っています。高齢者や障害者など社会の多数派ではない人たちが、大多数のために用意されたフォーマットに合わせて生きていかなくてはいけない。そのときの不利な部分を助けるのが福祉だと。
アートも長い間、多数派ではありませんでした。特に戦後、アートやファッションよりまず飯。食べていけるお金があることが重要視される中で、社会常識と「これが正解」というマニュアルみたいなものが日本社会に根付いてきたんだと思います。アーティストという職業は日本では不利で、僕自身「アートでご飯が食べられないのは自分の責任だ」って言い聞かせてやってきたんですが、やっぱりそういう時代、そういう文化が根付いていないという背景はあると思っていて、それを克服する作業がずっと続いているんだと思っています。
これがアートと福祉が似ていると感じるところで、みんなにとってマイノリティーで社会で生きづらさを感じている人たちがいるんだよっていうことを理解してもらう活動がアートなんだよって。こういう面白い生き方もあるし、自由に生きていいんだよって考え方を根付かせる活動。それがアートと福祉の共通点だと思います。
――アートと福祉をそのように考えるDENPAさんに作品を提供していただけて、ライフデザインはとてもよかったと思います。DENPAさんご自身の活動について、これからの夢や目標はありますか。
もっと自由に、自分で場所を選んで、自分でその場所のオーナーさんと交渉して描くっていう活動をもう一度やりたいなと思います。
――もともとどうして壁画を始めたんですか?
10代後半の頃に、ヒップホップカルチャーのグラフィティーアートに衝撃を受けたのがきっかけです。北谷の海沿いのレストランで普通にご飯を食べていたんですが、そこの防波堤いっぱいにグラフィティーが描かれていました。そのあたりではグラフィティーなんて見慣れていたので僕は特になんとも思わずご飯を食べていたんですが、そのときにいかにもこの絵を描きましたみたいなお兄さんがデジカメを持ってその絵を撮影してたんです。夜中にコソコソ描いた絵を昼間に撮影しにきましたみたいな。壁画ってグラフィティーもあればオフィシャルに認められたものもありますが、そういう生活の中になじんでいるアートにもやっぱり描いている人が実在するんだなって。今でいうバンクシー本人を発見しちゃったみたいな感情になってすごく興奮したんです!
そこから自分の部屋にこもって絵を描くのも楽しいけど、半強制的に否応なしに自分の表現を大衆に見せるみたいな行動にすごく憧れが湧いて、パブリックな場所に絵を描くことに魅力を感じるようになってそんな活動を続けていました。
――確かにその活動と企業から依頼をもらって描くのとはずいぶん違いますね。
ありがたいことにたくさんのご依頼をいただいて描かせていただいているんですが、クライアントさんとデザインのイメージのやりとりをして壁画を描くというのがだんだん自分の中でひとつのフォーマットになりつつあります。絵が描きたくて脱サラして自由に描こうって始めたのに、だんだん自分が自分の上司でセルフブラック企業みたいな(笑)
絵で食べられない期間が長かったので絵でお金をいただけるってすごく嬉しくて、やっぱりお仕事いただくことにハングリーなんです。だけどその反面、ドライブしていて「この壁いい感じだからここに描きたい」みたいなことがなくなりました。
――だからこそ、また描きたい場所に思うままに描いてみたいと。
自分で選んだ壁に自由に描く活動は、街行く人に発見されたときになにか刺激を与える、インスピレーションになるような気がするんです。そういう活動をこれからも続けていけたらいいなと思います。
アートと福祉の共通点を独自の視点から語ってくれたDENPAさん。ライフデザインにとっても大いに納得でき、目指す方向に合致するものだったのではないだろうか。確かに日本でアートで食べていくのは難しく、その中で自身の活動を貫いて地位を獲得してきたDENPAさんの生き様は、「福祉だから仕方ない」と様々なことをないがしろにされてきた福祉業界にも勇気を与えるものだといえよう。これからもライフデザインにインスピレーションを与えるアートを提供していただくとともに、沖縄で、日本で、世界のあちこちでDENPAさんのアートがたくさん見られる日を楽しみにしたい。